華道家/草月流師範
●スタジオ・リーフ
自分で選んだ「好きなこと」に
100%集中するための「基地」が、このかたち
ディスプレイから空間・イベントプロデュースまで
渋谷にほど近い駅前の小さな商店街を歩いていくと、コンクリート打ちっぱなしのシンプルなビルが見えてくる。ビル正面 に各階をつなぐ階段、階段の中心には風にそよぐ青竹。ここが華道家・假屋崎省吾氏のマルチな活動の拠点であるSOHO、スタジオリーフだ。
氏は、仕事の依頼が引きもきらない、若手注目の華道家だ。「あくまで空間にあるだけでやすらぐ『花』が仕事のベース」と言うが、作品の範囲は生け花の概念をはるかに超え、ディスプレイから、空間・イベントプロデュースまで、毎日のスケジュールは分刻みだ。作品だけでなくビジネスでも、伝統的で静的な印象が強い華道の領域を越える。
しかし氏は、住居とオフィス、教室という多数のスペースを兼ねるSOHOの「中心はあくまで教室」と断言する。北海道から沖縄、香港からも集まる生徒への敬意、自分の理想の教室を作るという自負、「安定収入をもたらす事業としても大切です」という。
そのことば通り、最上階、ロフト部分に打ち合わせスペースのある、広々とした3階が教室だ。室内には光があふれ、建坪20坪とは信じられない開放感がある。その下の2階が氏の住居とオフィスのプライベートゾーン、1階は花材倉庫。各階は独立し、外の階段だけで連絡する。各階正面は総ガラス、生徒は竹の葉の鳴る階段を、2階オフィスの中を眺めつつ、教室に上がっていくことになる。建物は、氏の作品を評価する一人である著名な建築家・鈴木エドワード氏に思いを話して設計してもらったものだ。
広がる仕事、理想のSOHO・。思わずため息が出るが、たどった道筋を聞くと、そこにはただ一つ、「自分にとって」という選択の徹底があった、ということがわかる。
大学時代に入門
氏が草月流に入ったのは大学在学中、入門としてはごく遅い。すぐ頭角を現し、家元の指導を受けるようになるが、卒業後はアパレルに就職した。しかし半年後、家元から1週間のワークショップへの誘いがあり、考えた末、辞表を出して参加したことが岐路になった。草月工房に入社、やがて外部の仕事の比重が増えて独立。こんなとき、いつも氏は話し合いで協力を得ている。もちろん作品の力、人柄もだろう。しかしそこにはおそらく、自分を考え抜いた人の強さがある。
オフィス選択もこの延長線上だ。都心の賃貸オフィスと実家との往復時間を惜しむ気持ちと経費の試算から、自然にローンでの持ち家SOHOを選んだ。新築したのも、改装費と比較した結果 だ。そして「頼むならあの方に」と、そこには気負いも迷いもない。
「『花』は仕事にとどまらない好きなこと。時間をフルに使いたいので、資料や花材などすべてが一か所にあるこのかたちは自然な選択」。そんな氏から読者にメッセージをもらった。「独立して仕事するなら、局面局面を自分で選んでいくこと、そして一つの失敗で行き詰まらないよう広がりを持っておくことが大切だと思う」。仕事で力の出し惜しみはしないこと、人間関係を考えすぎない切替えの習慣も、と加えた。やっかみなどにつき合っては損だ。「チャンスの数は皆同じで、生かせるかどうかで差が出るのだと思う。私もいまだに後悔していることがあるんです」そう言って、氏は次の約束に飛び出して行った。