アンチ繁華街の発想が地域密着型の居酒屋を誕生させた
居酒屋「鶴亀」チェーンは埼玉県児玉郡にある。いまから7年ほど前、居酒屋という業種が立地するにはおよそふさわしくない土地にこの店はできた。
「安くておいしい料理を出す居酒屋であれば、たとえ田んぼのど真ん中でもお客は来るはずと自信をもっていたんですが、最初、現地を見たときはさすがに不安を覚えました」
田中さんは20歳の頃から板前修業をし、数店の割烹や居酒屋で腕を磨きながら居酒屋開業のチャンスを狙っていた。いざ独立というときに物件を探したが、手持ち資金に見合う店舗物件は埼玉県のはずれにしかなかった。ところがその地域は人口がわずか1万7000人程度で、夜ともなれば真っ暗になって人の気配もない場所だった。当時はまだバブルの影響で都心部の賃料は高くて出店するのは到底無理である。田中さんはノンバンクから3600万円を借り入れ、42歳で居酒屋経営のスタートを切った。
夫婦で昼は定食、夜は居酒屋として懸命に働いたが案の定お客は少ない。田中さんはそこで考えた。味さえよければお客は来る、という職人的な考え方を捨て、「商売とは何か」「お客様第一」という客商売の基本に戻ることに考え方を切り換えたのだ。
「立地条件の悪い場所で商売するには、お客側の気持になるしかないんですね」
田中さん夫妻は。相手の立場に立つという商売の原点に徹底的に戻った。たとえば「いらっしゃいませ、ありがとうございます」の挨拶は、通 常なら3度言えば済むところを5度にし、心をこめて歓迎の気持を伝えるようにした。
その成果は半年ほど経った頃から目に見えて出始めた。連日連夜、店にお客があふれるようになってきたのだ。当初1日3万円程度だった売上はやがて5万、8万円と伸びていった。
居酒屋「鶴亀」ファミリーチェーンはFC展開を行っているが、他の大手ナショナルチェーンの居酒屋と展開方法がまったく異なっている。
「加盟者全員が一つのファミリーとして相互扶助するシステムです。本部と加盟者の関係ではなく商売のパートナーを求めているわけです」
ファミリーチェーンという名称にこだわるのもその一貫で、鶴亀チェーンでは各加盟店に一番安くて親切な業者を紹介して食材を供給している。通 常のFCは食材を本部経由で仕入れることによって、本部は利ざやを得るが、鶴亀チェーンはこれを嫌う。各加盟店とも同じ材料、同じ値段で仕入れることができるので加盟者側にとってはメリットが大きい。
「仕入れ、売上はすべてガラス張りです」
ちなみに同チェーンに加盟する場合、加盟金100万円、保証金20万円、工事設備費1千400万円の合計1千570万円(店舗取得費別 /15坪の場合)。15坪の店舗面積で、月商200〜300万円、粗利150〜180万円で、月々の返済が30万円あったとしても80万円が手元に残る計算になる。夫婦2人で生活していくには十分な収入といえるだろう。
小さな町に店を構えるメリットは、家賃が安いので月々の固定費が少なくてすむこと。また夫婦で働けばアルバイト、パートの人件費も抑えられる。大手の居酒屋チェーンが出店してくる可能性も少なく、激しい競争を強いられずに地域で独占的な商売を続けられることなどが挙げられる。夫婦2人で起業するにはまさに格好の商売ではないだろうか。