経営コンサルタントがインストラクターに変身するとき
博多駅近くのマンションの1DK。壁の部分は見えないくらい書棚が並んでいる。得意分野のコンピュータやビジネス関連の本ばかりでなく、大学時代に買ったというハウツー物などもあり、本好きにはたまらない。
定期購読している雑誌だけでも10誌を超えるという。しかも自由に貸し出しOKということで、図書カードまで用意してある。
ミニ図書館とも言えるこの部屋の持ち主は濱田裕司さん、37歳。
「インストラクターが本業ではないんですよ」と苦笑するが、現在、月の3分の1はパソコン講座のインストラクターをしている。その主な会場となっているのは雇用促進事業団福岡雇用促進センターのOAセミナー室。そこでの受講生は、一般のパソコン教室の受講生とは一味違う。年輩の方が目立つのは、経営者の受講参加が多いせいだ。
濱田さんの本業は中小企業診断士。経営コンサルタント業のなかで、情報活用、OA機器の導入指導等を行うことが多い。そういった企業の方から「それなら、先生が教えてくださいよ」と頼まれたのが発端で、自ら講座に立つことになったという。
『入門講座』と銘打ってありながら、実際に見積書や売上集計書を作成することに時間を多く取るやり方は、実践こそが上達の早道と信じているからだ。もちろん実務に即役立つようにと、テキストも濱田さん自身の手作りである。
受講生の方も、業務にパソコンを取り入れることの必要性を理解しているから、熱心だし質問も多い。一般教養としてのパソコン講座ではないということで、テキストを離れた講義も多く、時にはデジタルカメラを使ったデモを実演もする。同じ講座を受けても毎回違う内容が織り込まれているというので、リピーターも多いらしい。
リスクを負わないにわかSOHOたち
「日本語ってむずかしいですね」と笑う濱田さん。『初心者でも可、ただし実力主義』と謳っているのに、「何も出来ません。教えて下さい」的な受け身で応募してくる。何を勉強したいのか、その為に自分がどう動くのかを尋ねるメールを送ると返事が来ない。実際に働いてもらっても、コスト感覚の無さに首を傾げたくなることが多く、今は常勤のスタッフを入れることをあきらめたという。
「そんなに厳しいことを言っているつもりはないんですがねえ」
最近よく耳にする『にわかSOHO』への風当たりの強さも、結局は自分でリスクを負わないという無責任感覚にあるのではと表情が厳しくなった。淡々とした語り口は、年令よりも落ち着きを感じさせる。20代で組織を離れ、ひとりでやってきた自信の表われだろう。そして、その自信はコツコツ取得してきた各種の資格に裏付けられている。これからももっと上級の資格を取っていきたいと意欲を見せる濱田さん。教えること以上に自分が学ぶことが好きなようだ。
「SOHOで生き抜くためには、なにより人脈を広げることだと思います」
その言葉どおり、濱田さんの交際範囲は広く、所属している団体だけでも(社)中小企業診断協会、(社)日本技術士会、(社)情報処理学会と多い。それぞれの会報誌もファイリングされ、いつでも必要がある時に取り出せるようにしている。情報を仕事としているからこそ、増えていく情報をいかに活用できるように管理するかが課題だという。
人脈と情報を生かしてSOHOネットワーク作りへ
濱田さんのもう一つの顔は、パソコン通信の某フォーラムのシステムオペレーター。こまめに書き込みをチェックしては、コメントを出す。パソ通、インターネット合わせてのアドレスは6つあるというから驚きだ。毎日届く電子メールをチェックするだけでひと仕事になる。
プライベートでもインターネットで知り合った異業種の集まり等には顔を出すようにしているとのこと。ただ、三々五々集まって雑談を楽しみ、知らない顔を見たら名刺を交換する。積極的に人と出会うことを目的としているが、雑談から情報交換になり、ビジネスに発展することもある。
「知り合ったからといってすぐ仕事に結びつくものではないけれど、一度でも顔を合わせたということが大事なんです。」
これまでのキャリアを見込まれて、いまだにプログラマーとしての仕事の受注があり、時間が足りないと嘆く濱田さん。実は、福岡でSOHOのネットワークを作りたいという夢もある。ひとりひとりでは力が弱いSOHOも協会のような団体を作り、力を合わせればより大きな仕事も受注できる。仕事の情報や重なった受注を持ち寄って、SOHOの弱点である仕事の波を小さくすることも可能だ。東京・大阪と比べて福岡ではSOHOの層が薄い。そろそろ必要性を感じながらも、なかなか実現を見ないSOHOネットワークだが、濱田さんの情報と人脈をうまく結び付ければ、近い将来、福岡SOHOネットワーク発足のニュースが聞かれそうだ。