自分探し、そして巡り合った染色の世界
染色とDTP、このまったく異なった2つの世界でそれぞれに才能を開花させて活躍しているダブルワーカーが、三上真知子さんだ。
「20 代はとにかく自分の適性・適職はなんなのか、試行錯誤の連続でした」と語る三上さん。日本刺繍を専攻していた美術短大を卒業後、営業職、専門学校講師助手などの職に就いた。しかし時が経つにつれもの作りへの思いがしだいに募っていき、向った先は大学の求人板。そこで「以前から興味は持っていました」という染色工房の求人を見つけ、染色の世界へ飛び込んでいった。「もの作りは自分一人の世界の中でできるから楽しいんです。人間関係のわずらわしさもないですし」とまさに天職に巡り会えた三上さん。「入社した工房は、熱意がある人にはそれに応えて仕事をまかせてくれるところでした」と環境にも恵まれ、その持てる才能を開花させていったようだ。
経済的自立を目指し、ダブルワークの道へ
こうして染色の世界に没頭していた三上さんだったが、「この世界、ちゃんと食べていけるのは一握りの人だけなんです」という厳しい世界。いつかは染色家としてデビューをはたしたい、でも収入面での安定もはからなければならない、そんな状況の中で三上さんが下した結論はズバリ、ダブルワークだった。
そして三上さんがもう一つの仕事として選んだのがDTP編集だったというわけだ。「専門学校の助手時代に一太郎をかじっていたこともあってか、パソコンに対する抵抗感がなかったんです。アルバイド雑誌で参考書の編集会社の仕事を見つけ、EZPSという汎用機を使ってレイアウトとイラスト作成の仕事を始めました」。染色を続けるいう思いに支えられてか、三上さんはその後4年間にわたって9時から6時までは染色の仕事、そして週三日、7時から夜中の12時まではDTPのバイトというハードなダブルワーク生活を続けたというのだから、まさに筋金入りのダブルワーカーといえる。
転機の訪れ、決断、そして独立
その後、ダブルワークで多忙な日々を送っていた三上さんに大きな転機が、しかも公私共に同時に訪れた。プライベートでは結婚、そして仕事の方では勤めていた染色工房の廃部が決定したのだった。この転機に三上さんが下した決断、それは染色家としての独立であった。「染色の方は自宅で始めようと思い、部屋の改築も工房の社長に手伝ってもらって」と周囲の協力を得ながら、三上さんは自らの工房「エム工房」を立ち上げた。しかし先にも触れたが染色はそれだけで食べていくのは厳しい世界。さらに三上さん、そしてご主人共に女性も経済的に自立をすべきという考え方でもあった。そこで三上さんは、自宅での染色の仕事に加えて今度は編集・印刷会社の正社員になり、新たなるダブルワーク生活をスタートさせたのだった。
新しい会社に入社したのと時を同じくして、自宅ではご主人が逆輸入で当時まだ日本では珍しかったマックを購入したことで、三上さんも急速にパソコンに慣れ親しんでいった。「会社でもパソコンを使いたかったんですが、EZPS要員に徹していて、やらせてもらえませんでした。そのうち会社の事情でいろいろと仕事がやりづらくなっていって」そこで三上さんが選択した道、それがSOHO独立だった。
さらに3足・4足目のわらじも
「飛び込み営業なんかも全然苦じゃありません」という三上さんは、独立後の仕事は自ら営業に出向いてとってきている。さらにアルバイトや社員として関わっていく中で築き上げたネットワークも多いに利用してもいる。そんな前向きな姿勢が実ってか、独立してまだ1年あまりにもかかわらず、現在15人程度の外注のネットワークを抱えるほどになった。
「ゆくゆくは私自身は営業やディレクションの仕事に専念したいんです」
と三上さんは将来への夢を語る。しかし人を使うことで新たな悩みも生じてきた。一つにはネットワーク協力者の質の向上、そしてもう一つには資金繰りの問題だった。地域のミニコミ誌やインターネットを通じて求人を出した。
「トラブルがおきた時を考慮し、地元の人だけに限定しています。実は私たち外部に回ってくる仕事は、技術的に高度で社内で対応できなかったものだったり、納期がタイトであるといったものばかり。それに応じていくためにはネットワーク参加者の技術向上がかかせません」
といい、また資金の問題については「外注への支払と実際の入金とにタイムラグがある」という事情から、それを埋めるべく派遣や契約社員、そしてDTP講師を勤めたりと、実は三上さん、2足にとどまらず3足、4足のわらじをはいているのだ。
「とにかく染色の時間がとれないことが悩み」という三上さんだが「コンテストの類への応募は、ある時期を境に辞めています。今はいい作品を残すことだけを考えていたい」と製作にかける情熱は一向に衰えていない。そして現在は難しい図柄をパソコンで製作したりと2つの仕事のクロスオーバーもはかっている。
「なんといっても染色は私の心の支えです。今でも工房に席を置かせてもらっているのですが、行くとホッとします」
と染色のことを語る横顔は、心なしか輝いてみえる。
もの作りの喜びは同じ
「染色の場合、自分自身気に入った作品が仕上がったときと、それを納める時の相手の笑顔を見るのが好きなんです。染色にしてもDTPにしても納期がありますから、限られ時間の中で最大限の力を発揮するという点でも共通点がありますね」という三上さん。好きなことを仕事にし、なおかつ経済的自立もはかっているという才溢れる異色のダブルワーカーは、今後も新境地を開いていくことを予感させてくれる。