パリ、ニューヨークはもう古い。日本では尚更だ。海外で独立するならカナダだ、と筆者は断言したい。人々に優しく微笑みかける古くて新しい街並、モントリオールこそ、あなたを縛るしがらみを解放してくれ、本当の実力を発揮させてくれる街だろう。
ここに日本を脱出した一人のデザイナーが住んでいる。数年前、中島玲子さん(29歳)は将来の夢をモントリオールに賭けて日本を飛び立った。まさにゼロからの出発だったにもかかわらず、現在彼女の才能が花を開こうとしている。そのストーリーを紹介する。
見えてしまった自分の将来 この国では仕事を続けられない
6年間、日本の中規模雑誌社の編集局でデザイン部門のレイアウトを担当してた中島玲子さんは、当時、自分のデザインと会社側の求めるものとに日々ギヤップを感じていたという。デザインという才能の評価を低く見られがちな日本を離れ、自分の才能を正当に評価してくれる環境で、思う存分仕事をしたいという願いが年々強くなるのを感じたそうだ。
20代の後半に差し掛かる頃には、同僚達は一人二人と退職していき、社内でも飛び抜けたセンスの持主は、独立の道を歩み始めていた。
自分のセンスに自信を持っていた中島さんは、何度も独立を考えたという。しかし所詮、今の会社のデザイン部の外注になるだけという現実と、この国ではデザインが軽くあしらわれる風潮に限界を感じていた中島さんは、退職願を提出した時点で日本脱出を決心していた。
気が付くとカナダが私を呼んでいた
それから、中島さんは海外で仕事をするための情報を、片っ端から集め始める。ファッションならパリ、デザインならニューヨーク、二つの都市が彼女の頭を占領していた頃、ふとカナダのモントリオールに目がとまった。モントリオールはフランス系カナダ人の最も多く住んでいる都市で、英語とフランス語が通じる。パリに行かずしてフランスの雰囲気を味わえるし、ニューヨークまではバスで行くこともできる。その上カナダは生活費が安く、治安も北米一良い都市だと聞いた。自分を試してみる価値が充分ある国だと考えた中島さんの心はカナダのモントリオールに飛んだ。
所持金は約300万円。語学留学という形で業者から学校、ホームステイ先、留学ビザ等の斡旋をしてもらうことからカナダでの生活が始まった。授業は通常3か月の単位で、およそ10〜20万円。ホームステイはひと月当たり約8万円プラス手数料である。
現地での生活に慣れれば自分でも手続きができ、業者の世話になる必要はない。アパートを借りて共同生活をすれば、月々の部屋代は2〜3万円に押さえる事もできた。
「一石二鳥」と語学研修とデザインの再勉強を始める
言葉にも慣れた中島さんの次の行動は、現地でのグラフィックデザインの再勉強だった。しかしそのためには学生ビザを更新させ続ける必要があり、フルタイムの学校に就学するという制約があった。ある程度の英会話を身に付けていた中島さんは、友人からあるヒントを得る。フランス語のフルタイムのコースがあるという。クラスメートのほとんどは英語を母語とする人たちだったので、授業以外は常にネイティブの英語に接する事ができた。苦労は並大抵ではなかったが一石二鳥の言語習得法だったという。
一年が過ぎた頃、同い年の日本人女性と知り合う。彼女の夫はフランス系カナダ人で、デザインの仕事をしていた。日本でデザインの仕事をしていたことを話すと、仕事を手伝わないかと誘われることになる。