先行ダブルワーカーズのオリジナル仕事術徹底検証
リストラに備えてサイドビジネスで収入確保翻訳委託業
95年2月、大手食品メーカーで営業職に就いていた高木芳則さん(仮名/38歳)は、突然、関連子会社である造園会社に出向を命じられた。新たな業務は輸入植物の飼育、販売に関する統括マネジメントである。
「出向命令は、いわばリストラ宣告に等しいので、最初は相当なショックでした。しかし転職する気力もなく、当分は子会社でがんばってみようと思ったのです」
しかし、そこで翻訳業務に携ったことが、その後、高木さんがダブルワークを始めるきっかけとなる。
「新たな職場で最初に驚いたのが翻訳作業のズサンさです。輸入植物の取扱説明書はすべて英語で書かれているため、外部の翻訳業者に翻訳をお願いしていたんですが、その文章はお客様に見せるレベルには到底達しておらず、翻訳者の能力アップが急務だと感じました」
高木さんは外部の業社に翻訳業務を一括委託することをやめ、優秀なフリーランスを数人集めて個別 に仕事を依頼した。そうすることで翻訳者一人一人と意思の疎通を図れ、翻訳時の微妙な癖なども適宜注意できるのだ。
出向命令が降りて1年が経つ頃になると、馴染みの翻訳者は20人にもなり、同時に、高木さんに翻訳者を紹介して欲しいと頼みにくる人も増え始めていた。
「当初はいちいち翻訳者を紹介していたのですが、これはサイドビジネスになると気づいたのです。もう本社に戻れないでしょうし、次はまた別 の会社に出向させられるか、早期退職を迫られることになるのでしょうから、万が一のときに備えて新しい収入源を確保しておく必要は常々感じていました。それで、本業以外に翻訳請け負い業を始めたのです」
具体的なシステムはこうだ。発注元から高木さんがコーディネーターとして仕事を受注。それを共同作業者(翻訳者)に割り振る。共同作業者はネット上で情報交換しつつ仕事を仕上げ、高木さんに納める。高木さんがすべてをチェックして品質を整え、クライアントに納品する。
一見、どこにでもありそうなサービスだが、最大の強みは、翻訳された文章のクオリティの高さである。普通 、翻訳業者が仕事を受けた場合、1つの仕事を複数の翻訳者に割り振るため、翻訳者によって品質がばらばらになりがちだが、高木さんは気心が知れた翻訳者とネット上で密にコミュニケーションを取りながら作業を進めるため、全体的な翻訳品質も上等なのだ。
高木さんが「翻訳請け負い」で得る報酬は受託料の4割だ。残りは翻訳者への報酬。設備投資がかからないため月収は20万円を下らないという。しかし、このビジネスのメリットは収入面 よりも「社外の人脈ネットワークや他企業の秘密情報を得られること」だと、高木さんは語る。
「異業種から仕事がくるので、その人達と知り合いになれるし、依頼されるドキュメントの内容から、その企業がどんな動きをしているかも垣間見えるのです。こういった情報は本業にも多いに活かされます」